「感情と記憶と牛乳とタマゴ」

【内容】

 介護職(男性)が日々感じた事を話す、略して「介男

話」です。

今回も委員会で配布したコラムの紹介です。ペットっ

ていいよねー!ひまつぶしにどうぞ♡

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『感情と記憶と牛乳とタマゴ』

 長女が「リカちゃんハウスを下さい。父ちゃんには

犬を下さい」とサンタへの手紙に父親名義を使って合

法的に欲しい物を2つ手に入れようとしたのが今から

5年前の出来事。ずっと拒み続けていたが、ついに今

年の3月から我が家も犬を飼う事になった。

 誤解しないで欲しいのだが僕は犬が嫌いなのではな

い。むしろ大好きだ。昔飼っていた犬が死んだ時すっ

ごく悲しくて、旦那に先立たれた後生涯を独身で貫く

未亡人の様な心境で犬は飼いたくなかったのだ。犬は

行動や感情がシンプルで解り易いから良い。例えば僕

が女性にプレゼントを渡した時、全然嬉しくなくても

「わぁ!うれしい♡」と言うでしょう。犬ならばシッ

ポがピクリとも動かず、プイーッてな感じだ。本当に

人間にもシッポがあればいいのに…

 利用者Kさんは独身で子供が居なかったが、子供の

様にかわいがっていた猫がいて、その猫を妹に預けて

入園してきた。入園後Kさんは、独身でバリバリ働い

てきた事もあり、我が強くプライドも高く、他の利用

者と口論になる事もしばしばあった。僕が他の利用者

に「子供は何人?」とか話していると「私は子供は居

ないけどかわいい猫ちゃんがいた」と張り合う様に話

に割り込んで来たり、他の利用者の所に子供さんが面

会に来たりすると「ウチは猫だから面会には来れない

けど、呼んだら膝の上に来て…一緒に寝たり…」等、自

分に言い聞かすかの様に猫との愛情エピソードを話し

て来たりしていた。

何年かして、妹さんが面会に来て猫が死んだ事を伝え

た。その時僕は「わざわざ悲しむ事を言わなくても良

いのに」と思っていた。Kさんは「そう…最期は苦し

んでたの?」とだけ質問し、眠るような最期だったと

聞くと「良かった、随分長生きしたもんね」と話し、

話題を変えた。その後いつもの様に過ごし、僕の冗談

にも笑顔を見せ、いつもの様に他の利用者に文句を言

っていた。夕食後もKさんはいつもの様にトイレに行

きベッドへ横になった。夜だけPトイレを利用するか

らPトイレを設置しに行くと、いつもはすぐにPトイ

レに行ける様、入口側を向いて寝るのに、壁側を向い

て寝ていた。僕はそっとPトイレを置き、「ミャー」

と猫の鳴き真似をすると、壁を向いたまま、鼻をすす

りながら「そんなブサイクな声じゃなかった」と返し

てきた…

さらに何年かして、僕は管理職となり、Kさんとそん

なに日常的に関わらなくなったある日、本入園された

方に「子供は何人?」と話をしているそばにKさんが

居たから「Kさんは猫飼ってたんやね」と話を振ると

「はて、そうだったかしら?」と忘れていた。あんな

に僕に猫の話をしていたのに、あんなに猫の話をして

いる時は笑顔だったのに…僕は思い出してほしくて、

以前話してくれた猫とのエピソードを話したら、何と

か思い出してくれたけど曖昧だった。「あの時」猫の

死を正直に伝え「悲しませた」のは、妹さんのKさん

への優しさと、猫への愛情(妹さんには全然懐かなか

ったらしいけど)だったんだと思う。

つい先日、志村けんさんを追悼する「志村動物園」を

Kさんが見ている所に遭遇し、猫が出て来た時「私も

猫をずっと飼っていたの。いや~かわいい」とあの時

の笑顔を見せた。感情ってなんだろう。記憶ってなん

だろう。認知症になるってなんだろうって、文章で表

せないとても複雑な心境になったけど、1つ確信した

事がある。感情や記憶は決して「無くなったり」「失

ったり」はしないって事だ。時間の流れや認知症で

は届かない心の奥に大切にしまってあって、きっか

けがあればいつでも色あせる事なく蘇るのだ。家族

やペットとのかけがえのない、絶対に無くしたくな

い物は、絶対に無くなったり失ったりしないのだ。

(おまけ)

といっても蘇らなくていい記憶もある。夜勤明けで

スマホを見たら嫁さんから「牛乳とタマゴ」とだけ

ラインが来ていた。せめて「買ってきて」位打って

くれよー。「父ちゃんが使っていいタオル」って何

だよー。俺が朝パンを食べると「残りの計算が狂う

」って何だよー。4人家族なのに3個パックのプリン

買うって何だよー。もらいモンのバームクーヘン俺

の分置いてあるよって、3㎝位置いてあって…何等分

したらこうなるんだよー。あーしまった、興奮して

余計な事書きすぎた…

隠し事を書く仕事じゃなかった。やっぱり人間には

シッポはいらんな。よけいなイザコザが増える。感

情を上手くコントロールしてサッサと忘れるのが

1番だ。

 Kさん、俺も猫みてーに寝込みてーよ。

おしまい      

(Just forget move on!!)