「手をどけたらセンサーで止まる」

介護職(男性)が日々感じた事を話す、略して「介男話」です。

今回も委員会で配布したコラムを掲載します。

ひまつぶしにどうぞ♡

委員会が始まるまでの暇つぶしコラム

   『手をどけたらセンサーで止まる』

人はなぜ働かなければいけないのか?

この問いに多くの人が

「生きる為には食べなくてはならない、

食べる為にはお金を稼がなくてはならない、

お金を稼ぐ為には働かなくてはならない」

と答えるだろう。

つまり、お金を稼ぐ為に働く。

「仕事=金」という事だ。

ではなぜビルゲイツは働いているのか?

メッシは試合に出続け、

道場六三郎は料理を作り続けていたのか?

ボランティアで働く人だっている。

(ここから僕の片寄った思考が続きます、あしからず♡)

さっきの答えの「◯◯てはならない」という

退屈で窮屈な部分こそが「生活する」という事ではないだろうか。

つまり、本質的に生活とはなんともつまらない物なのだ。

仕事には当然その対価としてお金をもらうという意味があり

「仕事=金」は1つの側面ではあるだろう。

でも決してそれだけではない。

さっきのビルゲイツ等の大富豪や

ボランティアやNPOで働き、

働いた報酬が「お金」としては少ない人も働き続けている。

彼らは「働いた結果であるお金」よりも

「働き」そのものに「何か」を得ているのだ。

つまり「仕事=金+何か」なのだ。

そしてこの「何か」とは

・人から必要とされる 

・人から愛される

・人に褒められる

・人に感謝される

の4つのどれか(もしくは全て)だと思う。

人や社会とのつながりと表現する人も居るが、

それも突き詰めたらこの4つに含まれると思う。

退屈で窮屈な生活を送る上で働かなければならない状態でも、

仕事をすればこの4つのどれかが必ず得られ、

生活に彩りが生まれるのだ。

以前Hさんという利用者がいた。

髪が腰の辺りまである長髪で、

シルエットが「くまのプーさん」みたいで

いつもニコニコしているチャーミングな女性だった。

とても愛嬌があり、ご飯を配っても

おしぼりを渡してもトイレ誘導をしても、

何をしても笑顔で「ほんにありがとねぇー」と

返してくれるから職員からとても人気があった。

そんなHさんも月日と共に認知症が進行し、

オムツを外したり盗食をしたり、

危険認知が行えず車椅子から立ち上がったり、

さらに、円背が強く介助を行いづらく、

介護負担がかなり必要となった。

表情は別人のように常に険しく、

介助中職員の手を叩いたり罵声を言われたり、

とにかく「大変な利用者の1人」となった。

Hさんを変えたのは認知症という病気だ。

皆そんな事は「理解」している。

でも介護職員だって人間だ。

行った仕事に対しての返しが

険しい表情や罵声だったりすると

「理解」だけでは「納得」が出来ない時もある。

綺麗事のようだが、

Hさんは「ほんにありがとねぇー」と

言えなくなっただけなのだ。

これは自分でトイレに行けなくなった事と

同じレベルだと思う。

Hさんは介護を必要とし、

それは本人やHさんの幸せを願って死んだ両親、

Hさんが命よりも大切にしてきた子供達からは感謝される事で、

人から称賛される愛すべきサービスを提供しているのだ。

だから当時職員のO君がバシバシ叩かれながらも

「すぐ終わるから…」と汗を流しながら

オムツ交換をしている姿は、規模と解り易さが違うだけで、

メッシのスーパーゴールと同じベクトルなんだと思う。

O君と2人でHさんが何とか立てる位の頃、

トイレ介助をしていて、失便されていたので

保清の為ウォシュレットをした瞬間、

すごい勢いで立ち上がり逃げ出した!!

僕は必死にHさんを捕まえ

「火事場のバカ力ってあるんだな」なんて思っていたら

「介男さーん、水を止めてくださーい!」と

O君がビューッと出続けるウォシュレットの水を

ビショビショになりながら両手で必死に押さえていて、

その姿は、ビルゲイツの記者会見よりも輝き、

そしておもしろかった。

                おしまい