介護職(男性)が日々感じた事を話す、略して「介男話」です。
今回は2~3年前の委員会で配布したコラムですが、
職員Kさんとの思い出話です。
Kさん、僕もう40超えて娘も二人共大きくなりました。
いつかまた飲みに行きたいですね。
それではひまつぶしにどうぞ♡
『大地震が来る日まで待つ理由』
みなさんは「プラシーボ効果」を御存知でしょうか?
ラテン語の「喜ばせる」という意味のプラケーボが語源で、
何の効果もない物を薬として処方し、患者が治ると信じ込んだら
本当に効果が出るといった「思い込みの力が状態を変化させる」現象の事を言います。
臨床心理学では、どの心理療法の技法を使うか、という事よりも、
クライアントとセラピストの信頼関係の方が
治療効果に影響を及ぼすなんて考えもあるらしい…
昔、Mさんという利用者が居た。
パッと見はいわゆる「施設に入っている高齢者」という感じがなく、
普通のおばちゃんで、会話もしっかりと行える人だった。
(話をしばらくしていると「アレ?おかしいな」と感じられますが)
Mさんは不眠症で眠剤が処方されていた。
毎日19:00頃から「薬まだ早いか…?」「まだ早い8時まで待って」の
やりとりが3回位あって(早く飲みたがるのです)
20:00に薬を渡すと「これがないと眠れへんねん」というのが日課だった。
ところがある日、理由は忘れたが眠剤が中止となり、
次の受診日まで眠れるかどうか様子を見る事となった。
その初日、夜勤に当たったのが勤続1~2年目の僕だった。
いつも通り19:00頃「薬まだ早いか?」と来たから
薬はない事を伝えると「そんなん眠れへんやんかー」と訴えてきた。
その後も何度もやって来て「頼むわー薬おくれー」と繰り返し、
段々僕が意地悪して薬を飲ませていないような構図となっていき、
実際、翌朝出勤した職員に「あの兄ちゃんが薬くれへんから一睡も出来ひんかった」と話していた。
(ちなみに当時夜間看護師はいなかった)
以降Mさんは夜眠れず眠剤を職員に訴え続け、数日後また僕が夜勤となった。
共に夜勤をする相方はKさん(女性)。
このKさんは目つきと口は京都でも5本の指に入るほど悪いが、
気立てが良く、利用者を1人の人間として普通に接し、
利用者とよく世間話をするから利用者から人気があった。
19:00を過ぎ「今日も薬ないんかー」と暗い表情でMさんが来た。
僕は内心「うわーまた一晩中続くのかー」と思っていたら、
Kさんが「まだ早い、8時まで待って」と言った。
「Kさん眠剤中止ですよ」と僕が言うと、
「何言ってんねん、薬あるでー8時な」とMさんにもう一度言うと
Mさんはさらに表情を硬くして「絶対やで、頼むで」と一旦引いた。
20:00になるとK川さんはコーヒー用の粉末クリームを紙で少量くるみ、
「これ飲んだら朝までグッスリや」とMさんに渡し、
Mさんは「喜んで」それを飲んだ。
しばらくして様子を見に行くとグッスリと眠っていたから、
寮母室に戻ってKさんにその事を伝えた。
大股を開いてイスに座り、タバコをふかしながらニヤリと笑い
「薬が欲しい言うてるのやから何でもえーから白い粉渡しといたらええんや、可哀そうやろ」
と話すKさんはまるで仁義のある菅原文太の様だった。
Kさんがプラシーボ効果を知っていたとは思えない。
ただ「眠剤なしでも寝られるか」という事にしか注目していなかった
他の職員と違い、「薬がないと不安」で
「不安で過ごしているのは可哀そう」という、
職員というより1人の人間としての道徳心から工夫し行動をしたのだ。
そしてMさんが服用していた眠剤は錠剤であったが、
日常的な関わりの中で信頼関係を築けていたからこそ、粉末であっても信じ込み、
効果があったんだと思う。
その後Mさんには偽薬としてラムネを1個飲んでもらう事となり、不眠になる事はなかった…
ちなみにこのKさんには独身で1人暮らしの頃とてもお世話になり、
僕の結婚式にも来て頂き本当に感謝しているのですが、
ある日仕事が終わり寮母室に戻ると「送ったるから1分で着替え」と
送ってくれる事となり、帰り道うどん屋で夕食を奢ってくれた。
(当時バス通勤だった)
ところが1杯だけとビールを飲み始め、結局5~6杯位飲みやがった。
帰る時「車の運転大丈夫ですか?」と聞くと
「あんなん飲んだ内に入らへん、早よ車乗り」と車を走らせた。
(15年以上前の事ですから…)
ところが駐車場を出てすぐに「アカン酔っぱらって真っ直ぐ走られへん」と言い出し、
「センター線に沿って走るからアンタ対向車きたら知らせて」と
ムチャクチャな事を言い出し、307号線の真ん中を走り始めた。
僕は対向車が来ない事を祈りながら、死ぬ思いで対向車が来たらKさんに知らせ、
家に帰った時は全身汗ビッショリだった…
僕はその日から大地震が来たらどさくさに紛れて
Kさんをシバこうと心に決めている。
だからKさん、その日が来るまで身体に気を付けて元気に働き続けていて下さい。
おしまい
(無くそう飲酒運転)