「1/10000の2X」

介護職(男性)が日々感じた事を話す、略して「介男話」です。

僕はある委員会の委員長を行っていて、

その委員会でコラムを毎回配布しているのですが、

本日はその中の1つを掲載致します。

2年前の1月の委員会にて配布をした、思い出のコラムです。

ひまつぶしにどうぞ♡

委 員 会 が 始 ま る ま で の 暇 つ ぶ し コ ラ ム

『1/10000の2X』 

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。

さて、今年は梅林園創立50周年ということで、

幸運に恵まれるよう運のつく話を書こうと思う。

これまで介護職として18年働き、1000人以上の利用者に1万回近く

オムツ交換をしてきた訳だが、今回はその内の1回について。

僕はその日、職員のTさんとB棟で夜勤をしていた。

当時は今と違いABCはそれぞれ分かれていて、6人部屋もあった。

時計を見ると20:55、Tさんに「そろそろオムツ行きますか!」と声を掛け、

2人でオムツ台車を押して1番手前の「しらかば」居室に入る。

入った瞬間漂うコート(便の事)臭で、この部屋の6人の内

誰かのオムツからコートが漏れている事を察したが、まぁよくある事なので

僕もTさんも何も言わず、それぞれ左右1番奥の利用者の所へ向かった。

どちらが当たるかは運まかせだ。(便だけに)

「さぁ誰だ」なんて思いながら1人目の利用者の所に着き布団をめくろうとすると、

上着の首の所からコートがダラァ~と漏れていた。

布団をめくらずとも、大量のコートがオムツからあふれ背中を越え

首元から出ているという状況は想像が出来、

さらにその利用者はこちらの意思が伝わらず介護抵抗すら見られる人であった。

「Tさん、この方でした…」

反対側で布団をめくりオムツを変えようとしていたTさんは、

僕の方を見て僕と同じ状況をイメージし、オムツ交換をやめ、

そっと布団を掛け直し寮母室へバンダナを取りに行ったから、

僕も風呂場に公用のタオルを取りに行った。

大量のコートとの一戦は、目に汗が入ったら終わりだ。

Tさんはバンダナを、僕はタオルをそれぞれ頭に巻き、リングへと向かった。

ありったけの清拭やら色々と用意をし、開始のゴングが鳴った。

(布団をめくったって事)

予想通り見た事もない程のすごい量で、介護抵抗も見られたが、

Tさんと声を掛け合い全身を拭き、衣類を交換していった。

途中でナースコールが鳴り「私が行くわ」とTさんは上半身だけ走って向かって行ったから、

僕は(頼むから下半身も走ってくれよー)なんて思いながらも1人で出来る事をした。

Tさんも戻ってその利用者をベッドからストレッチャーへ移し、

シーツやら枕やら全て交換している途中の

「こんなにたくさん出したら気持ち良いやろね」と話す

Tさんの感性が僕の疲労感に充実感をもたらした。

やっとの事でその方の保清も終わり、一旦寮母室へ戻り一息つく事にした。

僕はタバコに火をつけ(当時は寮母室で吸えたのです)換気扇に向かって煙を出す。

一仕事終えた後の一服は最高だ。

するとTさんが鞄からマックフライドポテトを取り出し「食べる?」と言ってきた。

(夜勤のおやつにフライドポテトって!)

と普段なら突っ込む所だが、

2人で苦労を分かち合った直後という事もあり、何も言わずニッコリ笑って手を伸ばした。

冷めきってシナシナを通り越し、

柔らかめの芋けんぴみたいになったポテトを2人でつまんでいると、

Tさんが「もう10時半過ぎてるね…普段ならオムツ交換終わってる頃ね…」と言った。

「まだ1人しか終わってませんもんね」と返す僕。

「コート表にさっきのコートの量どの位って書こうか。5Lくらいかなぁ?」

「いやもう繰り上がって2Xとかですよ(笑)」

「夜は長いしゆっくりやろうね」

「そうですね、まだ12時間位ありますから」

「大変だったけど介男さんと2人だったしへっちゃら♪」

注)僕とTさんは歳の差30歳位あります、決して恋バナではありません。

そんなやりとりをしていると、段々やる気が上がってきた。

Tさんは不意に「ごめんね、コレ全然美味しくないね」と

僕が1口目から言いたかったことを言ってきた。

「正直激マズです」と返して2人で笑った。

「さぁ気合入れてオムツ行きますか!」

「そうね」

と2人で残りのオムツ交換へ向かった。

今思ってもあの時の量を超えるコートには出会っていない。

介護抵抗もあり1時間半位かかったしんどい仕事だったのに、

今思い返すと楽しい思い出となっているから、介護職はフシギだ。

おしまい。